2018年2月11日

バリスタチャンピオン 久保田洋平さんと対談

輪島市にオーナーになっていただいた、「熊本地震で壊れた陶器を金継ぎで甦らせる」ふるさと納税のプロジェクトが大成功となり、ご協力いただいた皆様には大変感謝しております。

今回目標金額を大きく上回り、増えた寄付金を使わせていただき、この金継ぎプロジェクトで得た技術を新たな形で物作りに活かすべく、「陶器に漆を象嵌(ぞうがん)」する企画を立ち上げました。

今回挑戦するのは、「取っ手の無いコーヒーカップ」作りです。

この「取っ手の無いコーヒーカップ」を作るに辺り、2017年日本バリスタ選手権 ドリップ部門で日本一に輝いたバリスタ、熊本市上通りにある岡田珈琲店の店長である久保田洋平さんにコーヒーやコーヒーカップに関するお話しを伺ってきました。

KURP:本日はよろしくお願いします!
 

久保田:よろしくお願いします。
 

KURP:今回は、輪島市のご協力とふるさと納税の成功もあり、目標寄付金額を上回りました。膨らんだ予算の有効活用と言うことで、輪島塗の良さと、陶器の良さを合わせた器を作るのはどうかと考えました。
 
こんな物をのを今考えていて(資料)
 
「取っ手のないコーヒーカップ」を作ろうとしています。
 

久保田:取っ手のない。ふんふん。

KURP:コーヒーカップって、熱いコーヒーを入れるので取っ手があると思うんですよね。
 

久保田:うんうん。そうですよね。
 

KURP:熱すぎて直にコーヒーカップを触れない。なので、輪島塗の良い所と陶器の良い所を掛け合わせて良い物を作ろうと思っています。
 

久保田:なるほど!

KURP:これが断面なんですけど、ここの削った部分に漆を埋め込むんですけど、漆に砥の粉といって木のパウダーを混ぜ込んだ粘土状の「こくそ漆」というのを、陶器の削った部分に埋め込んで成形して、陶器に漆を象嵌(ぞうがん)したいんです。
 

久保田:漆を調べたんですけど、漆って接着剤なんですよね?
 

KURP:接着剤にもなりますし、コーティングにも使われます。
 

久保田:コーティングは何回も塗りますよね!職人さんの動画を見てめっちゃ格好良かったです。
 

KURP:「こくそ漆」には熱が伝わりにくい木が含まれているんで、中からの熱さが伝わりにくいと思うんですよ。なので直に手で持てる。と予測しています(笑)
 

久保田:じゃあこの漆の部分が持ち手になるイメージ?
 

KURP:そうです。器の両サイドに象嵌します。
 

久保田:へぇシャレてますね。
 

KURP:形は色々と考えないといけないですけどね。
 

久保田:そうですよね。
 

KURP:僕は特にエスプレッソのカップは持ちにくいと普段から思うんですよ。でもエスプレッソって熱い状態で出てくることが多いので、このカップを作ると良いんじゃないかと思うんですよね。
 

久保田:なるほど。
 

KURP:これを作るに当たって、珈琲で生きていらっしゃる久保田さんにちゃんとお話しを伺いたいなと思って今日は来ました。
 

久保田:ありがとうございます。
 

KURP:僕が好きなコーヒーカップは「持ち重り」のするものが好きなんです。
 

久保田:「持っている」という感覚がする物ですよね。
 

KURP:はい。重みがある方が上げ下げするのに安心感がありますよね。輪島塗のコーヒーカップもあるんですけど、それは軽いんです。それはやはり中身が木ですので。
 

久保田:軽いですよね。僕も知り合いのコーヒー屋さんで、木のコーヒーカップを使っていらっしゃるところがあって、確かに軽いんですよね。
 

KURP:それには取っ手は付いていたんですか?
 

久保田:付いてないです。結構これ(湯飲み型)に形は近いと思います。
 
カップ持ち込みルールの大会用にカップを作ってもらって、気に入ったのでお店用にもいくつか作ってもらったそうです。
 

KURP:カップ持ち込みルールってあるんですね!
 

久保田:大会のルールは様々ですけど、たいていはそうですね。
 
プレゼンテーションにあたって、全体の世界観を持ってきて下さいというスタイルです。
 

KURP:面白いですね。

久保田:有田焼の岩永和久(いわなが かずひさ)さんという陶芸家の方がいらして、この方は自らコーヒー屋さんに足を運んだりしてて、業界の中でも有名な方です。この人はコーヒーの液体の知識が深くて、本当に良く知っているんですよね。例えばコーヒーの酸味を言葉で表現するときに「アプリコットの様な」といういい方をした時に、すぐにパッと分かる陶芸家さんなんです。

KURP:コーヒーが大好きな方なんですね。

久保田:大好きなんですよね。東京でコーヒーショップをオープンされる方も、岩永さんのところへ行って、実際にお店で出すコーヒーを入れて、岩永さんに飲んでもらって考えてもらうそうです。

KURP:わざわざ出向いて目の前でコーヒーを入れるなんてすごいですね!

久保田:岩永さんとは僕も仲良くさせていただいているので、いつかご一緒できればと思っています。

KURP:久保田さんはどんなコーヒーカップを求めていますか?
 

久保田:僕は色んなお店に伺ったり、色んなコーヒーを飲んだりする中で、器というのはここ2年ぐらい面白いなぁと思っています。
 

KURP:自分が好きなタイプの器ってありますか?
 

久保田:波佐見焼とかが好きで、長く使えるシンプルな物がいいですね。
 
有田焼はもてなすという意味合いでは明るくて華やかな印象で良いんですけど、
 
家で使うのであればもっとシンプルな方がいいかなと思います。
 
僕もカップには重量感があった方がコーヒーを飲んでいる特別な感じがすると思います。
 
あと飲み口の部分も重要ですよね。
 

KURP:飲み口の厚さをどれくらいにしようかと、ずっと迷っていて。
 
僕は家で使うのはいつもマグカップなんですよ。
 

久保田:僕も以前は家でマグカップを使っていて、最近は有田焼きだとか波佐見焼を使っているんですけど、この話を頂いた時にもう一回マグカップに戻ったんです。でもマグカップだとぶっちゃけ美味しくないかも知れないという印象。。。
 

KURP:そうなんですか!?
 

久保田:それの一番大きな要因は、飲み口の部分だと思うんですよね。
 

KURP:コーヒーカップの飲み口の形状って、大体外側に反ってますよね。口にスルッと入ってくるような形にした方が良いと思いますか?
 

久保田:そう思います。
 
ワイングラスのように飲み口がすぼんでいても飲みづらいので、少しくらい開いていた方が良いかなと思います。薄すぎても舌の真ん中に液体が来るので、全体に広がらないというか。
 
コーヒーは舌の奥側に来た方が、ジュワーっと広がって美味しいと思います。
 

KURP:コーヒーカップのテクスチャーには素焼きのザラっとしたものや、釉薬のかかったツルッとした物等いろいろありますが、どちらが良いと思いますか。
 

久保田:好みもあると思いますが、僕は大会の時のコーヒーと、お店で出すコーヒーが完全にイコールとは思わないんですが、ある程度そこを一致させていかないといけないのかなと考えています。
 
大会で評価される項目で「クリア」とか「スムース」とか言う表現があるので、例えば素焼きの土土した感覚はそういった項目に対して阻害要因になるのかなという頭がまずありますね。
 

KURP:今回の大きなテーマは「取っ手の無い」ということなんですが、取っ手のないコーヒーカップって見たことありますか?
 

久保田:それこそ先ほどの木のカップには取っ手は無いですし、銀座にカフェ・ド・ランブルさんというお店の関口さんという100歳を超える焙煎士の方がいらっしゃって、デミタスカップの取っ手の無いものも使っていらっしゃいますね。
 

KURP:それは熱いでしょうね?
 

久保田:コーヒーは65度くらいが一番色んな味がするというか、熱かったら舌は味を感じづらいし、温度が高いと味がぼやけるんですね。少し低めが一番味が分かるんですよ。お茶と一緒ですね。湯飲みにも取っ手が無いですもんね。
 

KURP:お茶は50度〜60度くらいのお湯で、ゆっくりうま味を抽出するのが良いと言いますよね。
 

久保田:コーヒーもそれに近いですね。でも普通はホットコーヒーって熱いですから、コーヒーカップには取っ手が付いていますけど、本当はカップを直に持っても飲めるくらいの温度で飲んで欲しいというバリスタもいますね。ただお客さんから「今日は寒いから熱いのちょうだいよ」と言われる場合もありますし(笑)。
 
コーヒーという液体に対するリスペクトもありますし、どちらも正解なんですよね。
 
ただ今回作られるコーヒーカップは熱くても大丈夫でしょうから両方カバーできますよね。
 

KURP:取っ手が無いコーヒーカップがあってもアリだと思いますか?
 

久保田:全然アリだと思います。
 
ぼくはこっちのが一番面白いと思いますね。

KURP:湯飲みタイプのものですね。実は僕はこのタイプが一番コーヒーらしくないと思っていました。
 

久保田:あぁそうですか?口のすぼませ方をどうするかにもよるとは思うんですけど、

そば猪口タイプのキリっとしたものよりも、ちょっと丸みがある方が僕は好きですね。
 

KURP:このスケッチはもうすでに陶芸家さんにも渡してあって、2月に焼いてもらうんですけど、八代市の髙田焼き・竜元窯の江上 晋さんにお願いします。
 
髙田焼きの大きな特徴として「象嵌(ぞうがん)」があるんですけど、「漆を象嵌する」ってどう思いますかとたずねたところ、「すごく面白いと思う」「技術的にも可能だと思う」と言って頂いて、挑戦してみようと言うことになりました。
 

久保田:たのしみですね。

KURP:以前お電話した際に、久保田さんが「熊本がかっこいいっていうことをもっと知ってもらいたい」とおっしゃっていましたが、それが僕には響いていて、具体的にはどんなことを発進したいですか?
 

久保田:キーワードは「熊本」ですよね。コーヒー業界では福岡がいま勢いがあって、それは単純に横のつながりを作ったりプロモーションが上手なんですよね。熊本は頑固者が多いところがあるから、手を取り合えばいいのになぁとか思いますね。
 

KURP:熊本にも沢山コーヒー屋さんがあると思いますけど、どういう風な業界になればいいと思いますか?
 

久保田:それはやっぱりオリジナルが良いんですよね。結局みんなアメリカやヨーロッパに寄りがちですけど、僕はちょっと大げさですがアジア全体のことを熊本から発進したいし、日本的な文化のフィルターを通したコーヒーをやりたいんです。
 

KURP:表現したいことは熊本には収まらないけど、発進は熊本からしたいということですか?
 

久保田:そうです!
 
結局コーヒーの世界大会には日本人の審査員がほぼいないので、みんなヨーロッパの方やアメリカの方が好きな味とかで日本人のバリスタは勝負することになるんですけど、そこをひっくり返したいですね。大会で海外に行かせていただける機会が去年あって、各国のバリスタやギリシャ人の世界チャンピオンとかと話す機会があったんですが、分かったのは勝たないと発言権は得られないと言うことですね。
 

KURP:世界で勝ちたい?
 

久保田:そうですね。それで新しい価値観というか、僕らで言う「地産地消」とか「温故知新」とかを世界に知ってもらいたいんですよね。僕が喫茶店で仕事をしているのもそこに理由があって、変わらないものにも理由があると思います。
 
コーヒー業界ってすぐに「イノベーション」とかって言うんですよ(笑)。「イノベーション」も良いけど、積み上げていくことが大事ですよね。
 
コーヒーショップも成功させるのはなかなか難しくて、やっぱり先人達へのリスペクトが大事だと思います。先ほど挙げた銀座ランブルさんの100歳の焙煎士の方に対してもそうですよね。
 
なので、そう言う事を伝えるには熊本の街はマッチしていると思います。
 

KURP:熊本市という地域にはそう言うところがありますよね。
 

久保田:そうですね。特に上通りにはそう言う意識が高いと思います。
 
なので、湯飲み型のコーヒーカップが良いと思うんですよね(笑)
 

KURP:温故知新ですね。
 

久保田:「温故知新」が僕の大事にしている言葉で、コーヒーをドリップする技術も、今はコーヒー豆の量を正確に計って、ドリップするお湯の量も○秒に何グラムとか量って入れるやり方が今は主流なんですけど、お湯を注いだ豆の反応に対して、続いて入れるお湯の量や入れ方を変えるのが経験の部分ですよね。きちんと量を量って正確に入れるのはロボットにだって出来るんですけど、豆と対話しながら入れるというのが先人の知恵だと思います。計量して入れる新しい方法も、味の再現性としては必要な技術だし、豆と対話する入れ方は日頃の訓練のたまもので大事な事です。なので僕は両方の入れ方をミックスして「温故知新のコーヒー」と言っています。
 

KURP:一杯一杯に血が通っていると思うと、更にコーヒーが楽しくなりますね。
 
僕も自宅でコーヒーをドリップするんですけど、ある時は集中してドリップ出来るときと、ある時はボーッとしてドリップしてしまう事があって、やっぱり集中してドリップ出来た時の方が思い込みもあるんでしょうが、美味しく感じますね。忙しい中にコーヒーをドリップするような時間がとても大切だと思っています。
 

久保田:すごくわかります。
 

KURP:このコーヒーカップを作るプロジェクトに対しても、作る意味のある、より良いカップを作りたいと思っています。
 

久保田:だから今日は来て下さって、もう一歩踏み込もうとされたんですよね。
 

KURP:そうですね。毎日毎日何杯も真剣にコーヒーと向き合っている方とお話しする機会もなかなか無いですから、貴重な時間でした。
 
またこのコーヒーカップが出来たら持ってきますので、是非一杯コーヒーを入れて下さい。
 

久保田:これはインパクトありますよ!楽しみにしています。
 

KURP:最後に、熊本地震の後、バリスタの仕事に対する気持ちの変化ってありましたか?
 

久保田:ありましたね。実際熊本地震の6日後に電気と水道が復旧したので、店の外でコーヒーを入れて無料で振る舞ったんですよ。最初は周りが水が足りないと言っていた時にコーヒーを入れるのもどうかと迷ったんですけど、すごい行列が出来て、並んでコーヒーを飲んでくれた方達がすごく喜んでくれて、コーヒーを飲むことで「失われたコーヒーを飲む日常がここまで取り戻せた」「安心する」といった言葉を頂いた時に、コーヒーの存在意義を非日常だからこそ感じられましたね。ああいう時だからこそ嗜好品を得る事で自分を取り戻せるんでしょうね。
 
コーヒーを入れるにも色々悩みますし、はたして大会に勝つコーヒーが美味いのかというと個性が強すぎることもあるし。その時のお客さんが求めているコーヒーを見抜いて出せるのがいいバリスタかなと思います。
 

KURP:素晴らしいですね!またゆっくりお話ししたいです。

今日はありがとうございました!

KURP代表 太田黒